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名古屋地方裁判所 昭和61年(行ウ)34号 判決 1988年1月29日

名古屋市名東区本郷3丁目159番地

原告

近江松屋有限会社

右代表者代表取締役

早川佳宏

右訴訟代理人弁護士

竹下重人

二村満

名古屋市千種区振甫町3丁目32番地

被告

千種税務署長 鷲見隆三

右指定代理人

宮沢俊夫

外3名

主文

本件訴えを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和60年5月27日付でした,原告の昭和55年11月1日から同56年10月31日まで,同年11月1日から同57年10月31日まで,同年11月1日から同58年10月31日まで及び同年11月1日から同59年10月31日までの各事業年度の法人税の各更正処分並びに重加算税の各賦課決定処分をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

(本案前の答弁)

主文同旨の判決を求める。

(本案の答弁)

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告の昭和55年11月1日から同56年10月31日まで,同年11月1日から同57年10月31日まで,同年11月1日から同58年10月31日まで及び同年11月1日から同59年10月31日までの各事業年度の法人税について原告のした確定申告,修正申告及び再修正申告並びに被告のした更正処分及び重加算税の賦課決定処分(以下,両者を併せて「本件課税処分」という。)の経緯は,別表記載のとおりである。

2  原告は,昭和60年7月24日,被告に対し,本件課税処分を不服として異議の申立てをしたが,同年10月24日付で棄却の決定がなされたので,さらに同年11月22日,訴外国税不服審判所長に対し,審査請求をしたところ,同61年9月11日付で棄却の裁決(以下「本件裁決」という。)がなされ,原告は,同月18日,その裁決書謄本の送達を受けた。

3  しかし,本件課税処分は,原告の所得金額を過大に認定した違法な処分である。

4  よつて,原告は,本件課税処分の取消しを求める。

二  本案前の抗弁

1  国税不服審判所長は,昭和61年9月11日付で本件裁決をなし,原告は,同月18日,その裁決書謄本の送達を受けたところ,本件訴えは,同年12月18日に提起された。

2  本件裁決書謄本は,昭和61年9月11日,原告の本店所在地である「名古屋市名東区本郷3丁目159番地」に送達されているから,原告は,同日,右裁決のあったことを知ったものであるところ,行政事件訴訟法14条1項,4項は,取消訴訟は裁決があったことを知った日から3か月以内に提起しなければならない旨規定し,その起算日については初日を算入すべきものであるから,原告は,遅くとも同年12月17日までに本件訴えを提起しなければならなかったにもかかわらず,本件訴えは,同月18日に提起されているので,出訴期間を徒過した不適法なものとして却下されるべきである。

三  本案前の抗弁に対する原告の反論

原告の本店所在地には,その経営にかかるラブホテルが在存するが,そこで勤務する従業員は,店長を含めて8名すべてが女子であって,いずれも文書事務を担当する権限を有しておらず,本件裁決書謄本を受領したフロント係の訴外前田美智子も,郵便業務の何たるかを理解できない単純労務者であったため,右郵便物を開封することなくフロントで保管していた。

また,原告の登記簿上の代表取締役である中川猛は,事実上は非常勤の役員にすぎず,実際の総務担当者は,取締役である訴外安永郁夫であるところ,同人は,営業上の用務のため,昭和61年9月18日から同月20日まで広島市に出張し,同市に宿泊中であり,同月21日夜に帰名し,翌22日,関連会社の店長会議の席上で,原告の店長より本件裁決書謄本在中の封筒を手渡され,そこではじめて本件裁決のあったことを知ったものである。

第三証拠

本件記録中の書証目録記載のとおりであるから,ここにこれを引用する。

理由

一  まず,本案前の抗弁について判断するに,同1項のうち,国税不服審判所長が昭和61年9月11日付で本件裁決をなし,原告は,同月18日,その裁決書謄本の送達を受けたことは,原告が請求原因で自認するところであり,また,本件訴えが同年12月18日に提起されたことは,本件記録上明らかである。

ところで,行政事件訴訟法14条1項,4項に定める出訴期間の起算日は,初日を算入すべきものである(最高裁昭和51年(行ツ)第99号昭和52年2月17日第一小法廷判決・民集31巻1号50頁参照)が,同条1項の「裁決があったことを知った日」とは,抽象的な知り得べかりし日を意味するものではなく,裁決の存在を現実に知った日を指すものと解すべきである(最高裁昭26年(オ)第392号昭和27年11月20日第一小法廷判決・民集6巻10号1038頁参照)。

二  ところで,右の点に関し,原告は,本件裁決書謄本を受領したフロント係は,文書事務を担当する権限を有していなかったし,また,原告の登記簿上の代表取締役は,事実上は非常勤の役員にすぎず,実際の総務担当の取締役は,当時,所要のため出張中であって,原告の本店所在地には不在であったので,原告が,本件裁決の存在を現実に知ったのは,その送達日の4日後であると主張する(本案前の抗弁に対する原告の反論)。

三  しかしながら,本件裁決書謄本が郵便により原告の支配圏内である本店所在地に送達され,社会通念上裁決のあったことを原告の代表者が知り得べき状態に置かれたときは,その裁決のあったことを知ったものと推定されるところ,行政事件訴訟法7条によって準用される民事訴訟法171条1項は,送達をなすべき営業所,事務所等の事務員,雇人らに対する補充送達を規定しているが,同項は文書の送達に関して一種の法定代理人を定めたものであって,右事務員らが事理を弁識するに足りる知能を具えている限り,その担当する事務の内容を問わず,右事務員らに対する補充送達によって本人に対する送達の効力が生ずるものと解するのが相当である。そうすると,本件の場合,原告の雇人である当該フロント係が,文書事務を担当する権限を有していなかったとしても,同人に対して本件裁判書謄本が送達された以上,それは原告の支配圏内に置かれたものであって,原告代表者の了知可能の状態になったものということができるから,右送達をもって,原告代表者は裁決のあったことを知ったものと推定されるのでこの点に関する原告の主張は理由がない。

また,原告の法律上の代表者は,あくまでも代表取締役である中川猛であるから,原告に対する送達の有無は,右中川の原告会社における内部的事務分掌の内容のいかんを問わず,同人が現実に了知可能であったか否かを基準として判断すべきところ,原告は,同人については不在等の現実の了知を妨げる事情を主張しないから,前記のとおり,本件裁決書謄本が原告の本店所在地へ郵便により送達された以上,仮に総務担当者が不在であったとしても,その時点で,原告は本件裁決の存在を知ったものであるとの推定を覆すことはできないというべきである。

四  よって,原告の本件訴えは,出訴期間を徒過した不適法なものであるから,これを却下することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法89条を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 浦野雄幸 裁判官 加藤幸雄 裁判官 森脇淳一)

<以下省略>

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